地域の防災は、“たった1メートル”で変わることがある

地域をコンサルする

誰もが感じているのに

 古い集落を歩いていると、「この道、かなり狭いな……」と感じる場所があります。

車同士のすれ違いが難しかったり、軽自動車でも圧迫感があったり。

地域によっては、「昔からこうだから」で済まされているケースも少なくありません。

 そんな中、古い家を取り壊して新築に建て替える場面を見ると、

「今度こそ少し道が広くなるのかな」と期待することがあります。

 しかし実際には、以前とほとんど変わらない幅のまま新しい建物が建っていることもあります。空いたスペースにはカーポート。敷地いっぱいまで活用された建物。

限られた土地を有効活用する、ごく自然な考え方です。

 もちろん、自分の土地をどう使うかは所有者の自由です。

ただ、地域活動に関わる立場から見ると、「本当にこのままでいいのだろうか」と感じる場面があるのも事実です。


「セットバック」という考え方

 建築の世界には、「セットバック」という考え方があります。

これは、建て替えなどの際に、道路側へ少し後退して建物を建てることで、将来的に道幅を確保していこうという考え方です。

 特に古い集落では、昔の生活道路がそのまま残っていることも多く、現在の基準から見ると非常に狭い道も少なくありません。

 そのため、新築時などに少しずつ後退していけば、将来的には消防車や救急車も通りやすい道路環境へ近づいていきます。

 ただ、現実には簡単な話ではありません。

なぜ、セットバックしたくないのか

 セットバックをすると、その分だけ使える土地が減ります。

「たった数十センチ」「たった1メートル」と言われても、土地が限られている地域では、その差は決して小さくありません。

駐車スペースが狭くなる。
庭が取れなくなる。
建物配置に制限が出る。

 

 さらに、「自分の土地なのに、なぜ下がらないといけないのか」という感覚も自然なものです。

長年その場所で暮らしてきた方ほど、「これまで特に問題なかった」という実感もあります。

そのため、

・既存建物を残しながらリフォームする
・建て替えを避ける
・空いた場所に構造物を設置する

など、「結果として道幅が変わらない」ケースも出てきます。

これは単純な悪意ではなく、それぞれの生活や事情の中で選ばれている判断なのです。


その道は“みんなの道”でもある

 ここで難しいのは、道路が単なる個人の問題ではないことです。

 確かに土地は個人所有です。
しかし、その土地が連続することで、「地域の道路」が形成されています。

つまり、一軒一軒の判断が積み重なった結果として、集落全体の通行環境が決まっていくのです。

1軒だけなら問題にならないことでも、それが続けば、道はずっと狭いままになります。

そして、その問題は平常時には見えにくいのです。


本当に怖いのは、火事や救急のとき

 この問題が深刻になるのは、何かが起きたときです。

 

 たとえば火事。

消防車が進入しづらい。
ホースを長距離延ばさなければならない。
初動が遅れる。

そうした小さな遅れが、被害拡大につながる可能性があります。

 また、救急搬送でも同じです。

救急車が近くまで入れない。
担架搬送に時間がかかる。
高齢化が進む地域ほど、この問題は無関係ではありません。

 しかも怖いのは、「自分が困る側になるかもしれない」ということです。

奥の家で火事が起きたとき。
家族が救急搬送されるとき。

「あの時、少しでも道が広ければ」

そう感じる場面が、絶対に来ないとは言い切れません。


なぜ、地域で話し合いになりにくいのか

 ただ、この問題はとても話しづらいテーマです。

「もっと下がって建てればよかったのに」

そう思っても、面と向かって言える人は多くありません。

 土地や建物は個人財産です。
そこに口を出せば、人間関係の摩擦も生まれます。

特に地方では、

・波風を立てたくない
・近所付き合いを壊したくない
・自分だけ正論を言いたくない

という空気も強くあります。

 そのため、みんな薄々感じていても、話題にしにくいまま時間だけが過ぎていくのです。

大切なのは、「責める」ではなく「共有する」

 だからこそ必要なのは、誰かを責めることではありません。

「これから、この地域をどうしていくか」を、ゆるやかに共有していくことです。

たとえば、

・自治会で防災の観点から話題にする
・消防団と連携して現状を知る
・新築時に地域として考え方を共有する

 そんな小さな積み重ねだけでも、将来は変わってきます。

強制ではなく理解。
対立ではなく共有。

地域の問題は、正論だけでは動きません。


たった1メートルが、未来を変えることもある

「たった1メートル」

そう思うかもしれません。

けれど、その1メートルがあるかどうかで、通れる車両や、救える命が変わることもあります。

 建物は建て替わっていきます。
しかし、道路環境は少しずつ積み重なっていくものです。

次の世代へ残すのは、立派な家だけではありません。

安心して通れる道も、地域の大切な資産ではないでしょうか。

 誰も言わないテーマだからこそ。
一度、地域全体で静かに考えてみる必要があるのかもしれません。

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